インガルスを一等航海士に迎え、ドーンスターを出港したメアリ。ウインドヘルムを目指し大海原を進んでいた。
ザザ〜っと静かな波の音が心地よく広がる。北の海だけあり気温は低いものの、高く昇った太陽が甲板を照らし寒さをやわらげてくれる。
インガルス
「さっきの海賊の死に方...そのカミソリが命を吸い取ったみたいだったな。」
メアリ
「航海は順調?」
インガルス
「見ての通り穏やかなもんさ。じきにウインドヘルムに着くだろう。」
メアリ達はメエルーンズのカミソリを処分するためウインドヘルムへ向かっていた。インガルスが言うにはそこにつてがあるらしい。
メアリ
「インガルスの言う”つて”って何?」
インガルス
「前に言ったろ?俺はカミソリを奪って売り払うつもりだったって。」
メアリ
「え?売るつもりなの?ウインドヘルムに行くのはそのため?」
インガルス
「何驚いてんだよ。ウインドヘルムはストームクロークの本拠地だからな。デイドラアーティファクトともなれば高く売れるだろう。ストームクロークの奴ら、高性能の武器はノドから手がでるほど欲しいはずだからな。」
メアリ
「うーん...売るのかぁ...」
インガルス
「嫌なのか?お前が使うんじゃないんだからいいだろ。海に捨てたりしたらドーンスターの連中みたいにデイドラの呪いを受けるかもしれないぞ。」
メアリは考え込んだ。言われてみればそうだが、カミソリを手に入れた経緯を考えると素直に賛成は出来ない。
インガルス
「まぁ納得出来ないんなら着いたら考えればいいさ。それよりウインドヘルムは冷えるぞ。覚悟しとけよ。」
メアリとインガルスはノルドなので寒さには慣れているが、それでもウインドヘルムの寒さはキツい。インペリアルのアンやブレトンのエリザはすぐには慣れないだろう。
アンは船室で武器の手入れをしていた。この船で闘えるのはメアリとアン、インガルスの三人。船長のメアリは前線に出ないとすればアンが主力になる。海賊経験のある彼女は常時戦闘に備えていた。
エリザはノーザンカーディナル号の航海を詩歌にしている。メアリも航海日誌はつけているがエリザの詩歌はより冒険的な内容に脚色されている。
カン...カン...カン...カン!
異常を知らせる鐘が響く。4回は戦闘準備の合図だ!
アン
「海賊船か!?」
勢いよく甲板に飛び出してきたアンが叫ぶ。
インガルス
「当たりだ!9時の方向、このままだと10分で敵の射程に入るがどうする!?」
メアリ
「無駄な戦闘は避けたいなあ。回避で!」
インガルス
「了解!」
インガルスは面舵いっぱいにきり海域離脱を試みた。だが敵も伊達に黒旗を掲げてはいない。獲物を捕捉した以上、簡単には逃さない。
エリザ
「ダメです。追いつかれる!」
ついに敵船の接舷を許したノーザンカーディナル号。戦闘は避けたかったメアリも覚悟を決める。
海賊
「お嬢ちゃん達〜、降伏なんかしても無駄だからね〜。」
船長
「乗り込め、野郎ども!金品と食料を頂いて女はさらってこい!!」
海賊達
「アーイ!」
メアリ
「アニー、インガルス!準備はいい?応戦するよ!エリザは船室に隠れて!」
エリザ
「は、ハイ!」
アン
「おうよ!」
インガルス
「俺が疫病神じゃないってとこ見せてやる!」
彼我の戦力差は3対1ほどであった。数では明らかに不利だが個人の戦闘力では圧倒的にメアリ達が上回っていた。
アン
「おらぁ!!」
バトルアックスを振るい海賊達を薙ぎ倒す。あまりの気迫に海賊達もうかつに近寄れないでいる。インガルスはアンの勇猛ぶりに驚きながらも海賊達を撃退していく。だが流石に数が違いすぎる。だんだんと追い詰められていく二人をメアリは黙って見ていることが出来なかった。
アン
「船長が出てきてどうすんの!」
メアリ
「黙って見てるなんて出来ないよ!私も戦う!」
インガルス
「お前、それを使うのか。」
メアリが構えていたのはメエルーンズのカミソリだった。仲間を守るためならば仕方ない。メアリは自分にそう言い聞かせ海賊達に斬りかかった。
ザシュッ!
海賊
「いっ!?? がはぁ!」
軽く斬りつけられただけの海賊が絶命する。まるでメエルーンズに魂を喰われているかのように。
海賊
「なんだあの武器は...!毒か!?」
海賊
「船長ダメだ!コイツら強すぎるぅ!」
船長
「何やってんだテメェラ!!たかが三人に良いように殺られやがって!」
メアリ
「聞いて!この船に金品は積んで無いし、食料も必要な分しかないの!お互い争うメリットは無いでしょ?手を引いてくれない!?」
船長
(いや!金品はなくともあの女共をさらえばカネになる。だが強ええ...アイツがいればあんな奴ら...。)「仕方ねえ!野郎共!引き揚げるぞ!」
船長の号令で海賊達は退却していった。三人は緊張の糸が切れたのかその場に座り込む。
メアリ
「何とかなったね。」
アン
「相打ち覚悟で突っ込んでこなくてよかったよ。」
メアリ
「そしたら私達もヤバかったね。」
インガルス
「戦闘員が船長含め三人てのがな...。お前達は確かに強いが数の勢いには勝てないぜ?」
メアリ
「さっきカミソリで海賊を斬った時凄く嫌な感じがしたんだ。私の意識をメエルーンズに覗かれてるような、、。やっぱりコレはもう使わない方がいいかも。」
インガルス
「さっきの海賊の死に方...そのカミソリが命を吸い取ったみたいだったな。」
アン
「ウインドヘルムへ急ごう。連戦はキツいよ。インガルスも、エリザに傷の手当てしてもらいなよ。」
エリザ
「今手当てしますから!船室へ入って下さい。あ、インガルスは二人が終わるまで甲板で待ってて下さいね!」
エリザは三人の傷の手当てをしながら自分だけが戦えないことに情けなさと悔しさを感じていた。
その晩、初陣を勝利で飾ったメアリ達は無事を祝い普段より少しだけ豪勢な夕食を摂った。賑やかな晩餐も終わり、飲み直すメアリ達。ふとインガルスはメアリに問いかけた。
インガルス
「はっきりさせておきたいんだが、この船の目的は亡霊の海の航海ってことで良いんだよな?」
アン
「何を今さら...!」
メアリ
「アニー!そうだよ。自分の知らない世界を見てみたいんだ。うまく言えないけど、冒険ってワクワクするでしょ?」
インガルスに食ってかかるアンをたしなめメアリが答える。
インガルス
「それは聞いた。俺が聞きたいのはその冒険に目的、あるいは目指すところはあるのか?ってコトだ。〇〇が欲しい、〇〇へ行ってみたい、とかな。」
アンとエリザはメアリを見た。3人で船出を決めた時は、ただ漠然と海に出ることしか考えていなかった。しかしメアリはどう考えているのか。だが肝心のメアリは首を傾げている。
メアリ
「うーん...知らない世界を冒険するんだから、欲しいモノとか行きたいとことか...まだわかんないよ。」
インガルス
「そりゃまあ、そうなんだが...。だったら挑戦してみねえか?伝説によ。」
メアリ
「伝説?」
インガルス
「そうだ。お前も知ってるだろうがこの亡霊の海を完全に航海出来た船乗りはいないと言われてる。冒険家だろうが、海賊だろうがな。」
「だが、海賊や船乗りの間に伝わる伝説では今からおよそ百数十年前、亡霊の海を征覇したと思われる海賊がいる。」
エリザベス
「”海賊シルバーの宝島”ですね。吟遊詩人の大学で教えられました。でもそれは単なる物語では?」
インガルス
「みんなそう思ってるさ。だがごく一部の奴らは命懸けでシルバーの財宝を探してる。俺もその1人なわけだが...。富や名声のタメだけじゃねえ。夢のためにだ!どうだメアリ、俺たちも伝説を追いかけてみねぇか!?」
三人の視線が集まる中、メアリはニコッと笑い、口を開いた。
メアリ
「私は私の知らない世界を冒険したいだけ。だったけど、伝説の宝を探すっていうのもワクワクするね。探してみよっか!シルバーの財宝!」
インガルス
「やっぱりお前達についてきて正解だったぜ!ロマンを追い求めてこそ海賊だよなあ!」
メアリ・アン・エリザ
「...海賊?」
インガルス
「...ん?...違うのか?」
メアリ・アン・エリザ
「...海賊?」
インガルス
「...ん?...違うのか?」
夜は更けていく。伝説の海賊が遺した財宝に心を躍らせるクルー達を乗せ、ノーザン・カーディナル号はウィンドヘルムを目指す。
コメント